2020年6月21日 しんぶん赤旗

首相秘書と40〜50カ所訪問

「安倍晋三事務所から来た」
“河井あんり応援”は首相の指示


陣営関係者が証言

 地方議員ら94人に計約2570万円の現金を配った公職選挙法違反容疑で逮捕された前法相で衆院議員の河井克行容疑者(57)と妻で参院議員の河井案里容疑者(46)=ともに自民党離党=。大型買収の舞台となった昨夏の参院選・広島選挙区では、安倍晋三首相の秘書が案里陣営の支援に入っていました。首相秘書はどんな活動をしたのか―。陣営関係者が本紙に証言しました。(丹田智之)

 
7月14日、安倍晋三自民党総裁を応援弁士に迎えて、河井あんりは街頭演説会を行いました。
(河合あんり氏のホームページから)



片手に名簿 約束なしに

 取材に応じた陣営関係者によると、昨年6月下旬に安倍首相の筆頭秘書をはじめ数人の秘書が応援に入り、一緒に4日間かけて県内の企業40〜50社を訪問したといいます。

 「名簿を片手に事前の約束もなしに回りましたが、社長さんに応対してもらえた企業も多かった。秘書は『安倍晋三事務所から来ました』と名刺を差し出してあいさつしていました。相手も総理の秘書だということで好意的な反応だった」と振り返ります。

 首相の秘書が、応援に入ることは異例です。NHKの報道(19日)によると、安倍首相は報道各社からの質問に対し「私の指示により秘書が広島に入ったことは事実だ」と回答しました。なぜわざわざ山口県から応援にいれたのか―。

 広島選挙区(改選数2)で自民党県連はベテランの溝手顕正元防災担当相を支援し、県内の企業や自民党議員の多くが応援しました。他方、党本部のごり押しで割り込んだ案里容疑者のもとには克行容疑者と親密な安倍首相や菅義偉官房長官が応援に駆け付けました。

 この関係者は「今回は厳しい選挙になる」と克行容疑者から応援を依頼され、昨年6月上旬から投票日の7月21日まで案里容疑者の選挙を手伝いました。

 「溝手さんのポスターの横に張らせてもらった案里さんのポスターが剥がされるなど、激しい票の奪い合いだった」といいます。

公明党市議の自宅も訪問

 この関係者によると、首相の秘書は公明党の支持母体である創価学会の施設や公明党市議の自宅も訪問。「選挙区では河井案里をよろしく」と支援を依頼していたといいます。

 参院選の広島県での公明党の比例得票数は14万7045票です。同党は選挙区で溝手氏と案里容疑者をともに推薦していました。

 「選挙戦の序盤は現職の溝手さんが優勢だったが、案里陣営には公明党の票が入れば勝てるという確信があった」と、この関係者は明かします。

 さらに自民党本部は克行容疑者と案里容疑者がそれぞれ代表を務める政治団体に、計1億5千万円の資金を提供しました。この金額は溝手氏の10倍とされます。

 この結果、案里容疑者は溝手氏に2万5688票差で競り勝ちました。安倍首相を先頭に異例の秘書投入と資金投下があっての“勝利”でした。


留守宅を訪問し家族に手渡しも
河井克行容疑者、「茶菓子代」30万円

 昨夏参院選をめぐり、広島県の地元政界に多額の現金が配布された公選法違反事件で、買収容疑で逮捕された衆院議員で前法相、河井克行容疑者(57)=自民離党=が「茶菓子代」などと言って県議や市議らに現金を提供していたことが19日、関係者への取材で分かりました。留守の議員宅で家族に現金を託すケースもあったといいます。

 東京地検特捜部などの検察当局は同日、広島市内にある河井容疑者と妻の参院議員、案里容疑者(46)=同=の地元事務所や自宅などを家宅捜索。河井容疑者が受け取りを拒否されにくい格好で現金を渡し、選挙協力を求めようとした疑いがあるとみて捜査しているもようです。

 河井容疑者から30万円を受領した市議によると、2019年4月の市議選投開票日の数日前、事務所で同容疑者と面会した際、「茶菓子代と思って」と現金入りの封筒を差し出されました。受け取りを拒みましたが、同容疑者は封筒をテーブルに投げて帰ったといいます。

 市議は「人目が多く、もめるわけにいかなかった。選挙に忙殺されて返せないままになった」と弁明するー方、「いきなり来て、闇討ちみたいなもの」と憤りました。

 家族が30万円を受け取った県議によると、河井容疑者は、留守宅で県議に代わって応対した家族に現金入り封筒を手渡しました。別の県議は、県議選当選後、事務所で30万円を受領。この県議は「『おめでとう』と封筒を手渡された。当選祝いと思い、断らなかった」と説明しました。2人とも後日返金したといいます。

 河井容疑者は、こうした手口で県議や市議らへの現金配布を繰り返したとみられ、特捜部や広島地検は同容疑者の議員会館内の事務所や地元事務所などの家宅捜索で押収した資料を精査。計94人に総額約2570万円を提供した買収容疑の全容解明を急いでいます。

 東京地裁で19日、案里容疑者と接見した弁護人によると、同容疑者は「違法な行為をした覚えはありません」と容疑を否定。河井容疑者も否認しています。

▲トップへ戻る